現代社会の病根
現代社会の親子関係について、東洋大の中里教授がまとめた調査結果が新聞に公表されていました。日本、アメリカ、トルコの三か国での統計です。
「子供は大いに自分の宝だと思う」と答えた父親は、日本では五二%、米では九一%、トルコでは七九%でした。母親はというと、日本では五八%、米では九三%、トルコでは七九%でした。
「子供を大いに愛している」と答えた割合は、日本の父親は六八%、母親は七一%。米では九五%と九六%。トルコでは父母とも九三%でした。
一方、子供が「大いに父親を尊敬している」と答えた割合は、日本では三七%、米では八三%。トルコでは九四%です。母親への尊敬度は、日本が四二%。米では九一%。トルコでは九四%でした。
また「親が自分に期待しているか」「親が何かと自分に相談するか」という設問に対する回答も、同様の傾向だったということです。
中里教授は「日本の親子関係の異質さに気づき、子供と喜怒哀楽を共有してほしい」とと話しています。
日本の半分近くの親たちが、子供を宝だとは思っていないのです。子供をそれほど愛していない親たちが、実に三〇%もいるのです。さらに憂慮すべきは、父親を大いに尊敬している子供が、三七%に過ぎないことです。キリスト教のアメリカは八三%であり、イスラム教のトルコが九四%であることを見れば、日本の父と子の関係が、いかに異質であるかが分かります。その原因は、宗教の基台が失われたことにあるのは明白です。
江戸時代から戦前までの、道徳教育の基盤は儒教にありました。
「修身、斉家、治国、平天下」という儒教の教えの中心は家庭にあったのです。その家庭の中心は、いうまでもなく父親であり、ここに家庭の縦的な秩序が立ちます。子供の父母に対する愛と尊敬が孝となります。
家庭が拡大されたものが社会であり、国家です。学校では教師と生徒、職場では上司と部下、国家では首相と国民が縦的な秩序です。君に対する臣の忠誠心が忠です。
家庭の横的な秩序が夫婦であり、兄弟姉妹です。横的な関係にも主体と対象、長幼の秩序があります。家庭は縦横の秩序を学ぶ場であり、また愛を育てる場でもあります。儒教の教えが間違っていたわけではありません。ただ真の愛による結びつきより、かくあるべしという規範が強調され過ぎた面はあります。
しかし儒教道徳は戦後、封建社会において支配階級が大衆を従わせるための手段、とされて退けられました。古来からの仏教、神道も影響力を失いました。宗教は唯物論思想を消化することができなかったのです。また都市化、核家族化によって家庭の秩序が崩壊していったのでした。
宇宙には厳然とした縦横の秩序があります。太陽−地球ー月という縦的な秩序があり、地球や火星といった惑星の横的な秩序があります。この太陽系がまた、ある宇宙の中心を回転しているのです。人間社会も同じです。
家庭、社会、国家にも縦横の秩序がなければなりません。現代社会には縦的な秩序が失われています。家庭では父権が失われ、学校では教師が権威を失い、社会では政治家も企業経営者もその権威を失墜しています。主体は対象に愛を与え、対象は主体に美を返す、これが愛と美の授受作用です。しかし主体と対象の縦的な秩序が崩れれば、真の授受作用ができなくなるのです。その結果は利害、損得の人間関係だけになってしまいました。
金権体質でこりかたまった政治家が、金銭の不正を暴露されて国民に頭を下げ、企業は欺瞞が暴露されて経営者が頭を下げています。学校の先生にも問題はあります。しかしさらに問題を大きくしているのが親やマスコミです。日本のマスコミは権威を失墜させることに、使命感を抱いているかのようです。国家の中心であるべき首相を、日本のマスコミほど軽々しく扱う国はありません。青少年の模範となるべき人物像が、どこにもありません。あるのは人気という虚像ばかりです。
現代社会の病根は、家庭の崩壊にあると言わざるをえません。親が子供を虐待したり、子育てを放棄して餓死させたりする事件が連日のように報道されています。事件は氷山の一角でしょう。その背後にはさらなる現代の病根が潜んでいるのです。
家庭に愛が欠けていれば、子供は外部に仲間を求めてさまようのです。人生の目的も目標もなく、若者たちは肉欲を満足させる刹那的な快楽に走るのです。不純異性行為、援助交際という名の売春、暴力や麻薬、犯罪にも手を染めるようになるのです。
神様が最も嫌われるのが、フリ−セックスです。人間堕落の原因がそこにありました。家庭の崩壊もそこにあります。貞操や姦通という言葉も死語に近くなりました。不倫が罪の意識もなく語られています。しかしながら家庭のトラブルの大半が、性の倫落から起きるのも事実です。痴情のもつれが原因で命を失えば、そのまま地獄に行くのです。
人倫道徳が乱れに乱れる時が終末です。古い価値観が崩壊する時であり、新しい思想、新しい価値観が現れる時です。善と悪が交差する混乱の時が終末です。
真の人生の目的がどこにあるのか、もう一度神様が人間を創造された、原点に戻ってみましょう。